「生っぽい打込み」の例

「生っぽい打込み」について。

但し、KORG01/WFD におけるそれ、なので、どなたのご参考にもならないです。

 

0'19" 目と 0'30" 目のハープのグリッサンド

 

譜面はこうなってて、

つまり、ハープのグリッサンドは、ペダルを踏まない状態だと

ラシドレミファソラシドレ……

のダイアトニックの音階になるけど、この曲のこの箇所では、これが「ラ♯、ド♯、ミ♮、ソ♯」の和音になるペダル設定。

すなわち、ラを半音上げ、シを半音下げて、ラ♯の弦を2つにする。ド♯、ミ♮、ソ♯についても同様。グリッサンドの実際の鳴り方としては

ラ♯ラ♯ド♯ド♯ミ♮ミ♮ソ♯ソ♯ラ♯ラ♯ド♯ド♯……

となる*1

楽器法の意図としては、「グリッサンドで和音を出す」ということ以上に、「同度の音が2つずつ隣り合う」ことによる効果が欲しい、のだと思う。

生ハープでは、どんなに正確を期して調律しても、ラを半音上げた音とシを半音下げた音とがぴったり同じ高さ、とはいかない。結果生じる「うなり」を、効果として積極的に取り入れる。

 

この「生っぽさ」を得るための打ち込み方はたぶん2通りの方法がある。

1通り目

① トラック1に、半分のテンポで「ラ♯、ド♯、ミ♮、ソ♯、…」と打ち込む。

② これをトラック2にコピーする。

③ トラック2だけ後ろにずらす。

01/WFD では、「クォンタイズ」のページでやるのは、音符単位でのタイミングの補正「クォンタイズ」と、その収束先を前後にずらす「オフセット」。ここではこのオフセット機能だけを使って、トラック2の1番目の音がトラック1の1番目と2番目の音の中間に来るように、トラック2を後ろにずらす。2つを同時に鳴らすと、ハープの「ペダル設定してグリッサンドで弾いた状態」になる。

④ 「うなり」の効果を得るために、トラック2だけベンダー情報でピッチをずらす。

「デテューン」はトラック全体に対して掛けるものなのでここでは使えない(この小節だけのためにトラックをひとつ費やすわけにはいかない)。特定の区間だけピッチをいじるのには、ベンダー情報を使う。

 

2通り目

私はてっきり、この打込みでは以上の方法でこの箇所を作ってるのだと思ってた。ところがデータを見ると、同じものをたんにずらした、というステップタイム、ヴェロシティになってない。

ここで取ってる方法は、どうやら、

① トラック1にグリッサンドを(白鍵ダイアトニックか何かで)手弾きで打ち込む。

② トラック2にコピーする。

③ トラック1の偶数番目のノート、トラック2の奇数番目のノートを「イヴェント・エディット」のページで1個1個間引く。

④ 「イヴェント・エディット」のページで音高を1音1音設定し直す。

⑤ トラック2にベンダー情報を入れる。

のようなのだ。

何故そんな手間なことをするのか。おそらく「生っぽさ」へのこだわりの徹底なのだろう。生のグリッサンドにおける1音1音のタイミングや強弱の揺らぎをそのまま残すための。これは「聴いて判るかどうか」の問題ではない。あるいは打込み作業者自身にはその差が判別できてたのかも知れないが、もっと「理念」にかかわることなんだと思う。

*1:4音で出来た和音の各音を2つにすると計8つになってしまう。私はハープの奏法の実際を知らないけど、「オクターヴ内に7本の弦」でこれをやるためには、「ラ♯」か「ソ♯」かどちらかの音を弦1本で我慢せねばならない筈。