メモ(図と地の連続的入れ替わり)

図と地との入れ替わりは、スイッチ的「反転」だけじゃなくて、「連続的」な場合もある。

例えば、天の川の茫洋を背景に星々が点で位置を占める。でも天の川も恒星の=点の夥しい集まりで、近くの個々に識別できる光の点=図と、遠くの光茫の広がり=地とは、連続してて、「この距離を以て両者の境目」と特定出来ない。

銀河系を横切れば、星は後方に退いて天の川の構成要素になり、入れ替わりに前方の天の川の中から星の点が浮き上がってくる。

 

環境音の総体の中から意識が特定の音をピックアップしてこれに対して聴覚を集中させる時、それ以外の音は後景になってる。別の特定の音に意識を移すと、それ以外が後景になって、さっきの音は後景の一部になってる。

鑑賞者が空間内で位置を移動させてゆくと、ある時点で「図」として聴いてる対象が後ろに遠ざかって、音量的にフェイドアウトして、「地」の中に溶け込んで行く。入れ替わりに前方の「地」の中から別の特定の音が音量的にフェイド・インして来て識別可能になって「図」として立ち上がる。

 

鑑賞者が空間内の定点に位置してると、全ての物音を成分として含んで地平にとよむ渾沌が聴こえる。

このバックグラウンドのドローンから個別の音が立ち上がり、鳥の声として、または自動車の音として、私のそばを通り過ぎ、また渾沌へと還ってゆく。

 

フィールド・レコーディングで、川のせせらぎ、蝉時雨、秋の虫たち、梢の戦ぎ、ヒトの会話、を別個に録り、5つのレイヤーとしてミックスする。ある時点ではせせらぎ+蝉時雨+梢の戦ぎを後景に虫の音が前景を占めてる。時間の経過とともに徐々に人の会話がフェイド・インして来て前景を占め、さっきまでの4つが後景に回る。地と図が「連続的に」入れ替わる。

 

前景と後景を分けるのは、スタティクに見て音量差というのもあるけど、「フェイド・インしてくる音」は意識されやすく前景化されやすい。

物理的音量と、意識。