ポセイドンのめざめ

私が『宮殿』就中「エピタフ」を嫌いだということには何度か触れた。

要するに「形を整えに行ってる感」が嫌いなんだ。

① 陳腐なコード進行を

② 4×4×4 の硬直した尺の「外枠」の中で

③ 白玉コードで埋めて

④ 繰り返す

⑤「情」と「雰囲気」の

音楽。

つまり私にとって最も縁遠い「叙情派シンフォ」の元祖にして典型。

 

メロトロンの使い方が間違ってる。白玉で空間をきもちよーく=きもちわるーく埋める。

アコギが、コードに含まれる音しか使わない。8分音符のアルペジオと、コードストロークの頭打ちに終始する。

ドラムが、凡そフレーズというものをやらず、パターンによるビートキープに終始する。終わり近くでフレーズやってるじゃないかといわれそうだが、これは「フィルイン」を多めにやってるんであって、予定調和の枠内だ。

 

つまり、インスト・パートが主メロ=ヴォーカル・ラインを支える伴奏に堕する「ホモフォニー」が、プログレじゃない。

 

この曲はフリップの作曲の一里塚ではあるんだろう。でも彼自身これに納得しなかったと見える。これを足掛かりに、次作『ポセイドンのめざめ*1』で、いくつかの点で改善が図られる。

 

クリムゾン・キングの宮殿』A面と『ポセイドンのめざめ』A面はよく似てる。『宮殿』の「エピタフ」に相当するのが、『ポセイドンのめざめ』の「ポセイドンのめざめ」。

 

「ポセイドンのめざめ」が「エピタフ」の「劣化」コピーである、という意見には、私は断固反対である。

私は「ポセイドンのめざめ」を、キング・クリムゾン曲の中でとくに好きなわけではないが、「エピタフ」との比較で、美点が多いと思ってる。

 

久々に聴き直してまずびっくりしたのは、「キックが凄い音してる」ことだった。

この音色この録り方によるドラムの「フレーズ」が、安定を志向しない。危なっかしい緊迫と破壊力。荒っぽくバタバタと。いやあかっこいい。

アコギは、コードに収まらないし、即興性が大きい。自由。

そしてメロトロンの使い方の改善。白玉コードのマッスではなく、線をポリフォニックに重ねてる。

 

じつは今回いちばんハッとしたのは、増3和音の扱いだ。

このコードへのフリップの好みを、この曲は「エピタフ」から引き継いでる、のではあるが、「エピタフ」ではこのコードが長3和音に進んで「解決」する。つまり安定に向かう。

「ポセイドンのめざめ」では、逆に長3和音から増3和音に進んで、楽節を終える。

 

私は「21馬鹿」の作曲を身も蓋も無いと思うけど、「冷たい街の情景*2」の歌メロの造形は好きだ。イントロのメロは Donovan 'Get Thy Bearings' 由来だろうか?*3

でも私がアルバム『ポセイドンのめざめ』でいちばん好きなのは「キャット・フード」。キング・クリムゾンの「シニカルなユーモア」の系譜はこれに始まる。『宮殿』にはこれが無い。

*1:この邦題が誤訳なことに改めては触れません。

*2:'Pictures Of A City' の邦題をいま初めて認識した。

*3:この Donovan 曲をキング・クリムゾンはカヴァーしてライヴでやってる。