♀:「今回は丁寧に緻密に作り込みたい」とは言ったけど、それだと、前回の「ライヴの・インプロの・相互行為の」と違って、「2人で作る」ということがやりにくいね。
♂:これ(♂曲、作りかけ)、あと任すから、好きに作り変えてもらいたい。
♀:既に完成してるし。私が手を入れる余地ないし。1人で仕上げるべき。
♂:「好きに」で丸投げも「自由さ」だし、でもこの場合は――
♀:何か指示が欲しい。のほうが自由になれる。
♂:これ「協和し過ぎ」なんだよね。「濁らせろ」というんじゃなく、「閉じてる」のを「開いて」もらいたい。何に向かって開くのかというと、なんか、大きな「音の出来事たちの世界」に向かって。「音の世界」が「曲が曲であること」を許してくれてる、みたいな。「曲作品」であることが「音の世界」を排除してない、みたいな。
♀:雲を掴む話……
♂:具体的な方法としては、新たなトラックを加えるにしても、既にあるトラックに協和させることを意図してじゃなくそこに置くというか、年を経た建物に蔦が絡まるみたいに、というか、たまたま通り過ぎる郵便配達夫のように、というか、
♀:どこが具体的な方法やねん。
♂:効果音でもいい。鳥の囀りとか。小川のせせらぎとか。
♀:それは常日頃♂くんが「安直」として斥けてるやつなんじゃ……
♂:その「斥ける」料簡が料簡であり過ぎ、と思い始めてる。
♀:そうやっていつもどおり煙に巻かれつつ、やってみるわ。
(フィクションです。)