ふたつめの超常現象

物が忽然と消えた。テオフィリン*14錠分のシートが、割って2錠分ずつに2等分しようと両手の指先で軽く圧力を掛けた弾みに手から離れて、最終的に左手指がそれに触れてる感覚が消えたのを最後に、消えた。

私はこの時、床に敷いたオフトゥンの上にお姉さん座りしてた。オフトゥンにはシーツが敷かれ、その上には、私と、左脇に枕と、右にやや離れた位置に無造作に丸めた薄い毛布があった。

床の上にもオフトゥンの上にも、それ以外のものは置いてない。1m 離れた位置にようやく、固定式電話機と、それに繋がった何やら黒い小匣があるのみ。引っ越しの荷造りが済んでるので、室内はこの上なく整頓されてる。

「落ちた」というより「消えた」という感覚に近かったけど、常識で考えると、私の左太腿の上か、シーツの上かに落ちたのに違いなかった。普通にそこに見つかる筈だった。枕を持ち上げて(引っ掛かり、からの落下、を期待して)振ってみたが、無い。

シーツは襞ひとつ作らず折り目正しく敷いてあるから、そこに紛れる可能性は無かったが、念の為シーツとオフトゥンの間、床との間、その周辺を捜すが、無い。やや離れた位置にあった毛布も振ってみたけど、無い。

落ちた可能性のある範囲はごく狭かったけど、見つからないから、徐々に捜す範囲を広げることになる。当初、現場保存の状態でこそ最も見つかる可能性が大きいと思われた。物を移動させたりすると余計に紛れそうで。でも出て来ないんだから仕方ない。

結局、そこにあるものを全部捌けて、一個一個振って元の位置に戻しつつ、床全面に掃除機を掛けたが、どこからも出て来なかった。一辺 3.5cm のほぼ正方形の、プラスティックの材質のものを、もし掃除機が吸ったら、音で判る筈だけど、それも無い。

「紛れた」のではない。「どこかに移動した」のでもない。「消えた」のだ。小人の仕業、と考えるのが最も合理的だ。彼は、盗んだのか、悪戯で一時的に隠して、いつか何食わぬ顔で*2返してくれるのか。

 

追記。後日譚。

 

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*1:テオドールのジェネリック

*2:その顔を目撃することは叶わないけど。