トンネル効果 ①石槫トンネル開通で湖東に齎される経済効果のこと。②雪国が、トンネルを抜けてそこに出ることによって、アナザーワールドと設定される効果のこと。③東山トンネルを抜けると山科区であった。
私のプログレ入門は『狂気』だった。でも、これにびっくりできるためには、下地としてそれ以前に何か経験してたのではないか?
アーティストや作品として何かを挙げることは出来るかも知れない。でも私にとってもっと重要だったと思うのは、現実空間の中での音の振舞いを面白がる体験だ。
私は金属音が好きだ。複雑な倍音構成の音色それ自体もだし、金属オブジェのこっちの端を叩くと、そのままの音量・音色で遠く離れたあっちの端に伝わる、とか。
アルミのボトルを叩く。だいたい物があるとまず叩いてみる子だったのだが、左手がボトルを持つ位置や押さえこむ強さ、右手が叩くポイント、によって音色や音高がいろいろに変わる。
街中の、ノイズの多いスピーカや換気扇の排出口の前を歩いて通過する時、フェイズシフトが起きる。音源と私との空間的位置関係が、時間推移とともに変化すると、音色が連続的に変化する。
トンネルの中とか、他所のお宅のガレージの前を通る時とか、コンクリートの跳ね返りがある所では必ず、手を叩いた。リヴァーブも好きだけど、場合によってその中に特定の音高が聴こえる。私を面白がらせたのは、ディレイだった。
1回の拍手がディレイによって繰り返される。繰返しの周期が特定の範囲だと、それを周波数とする可聴域の音高になる。
田舎町のバスの開け放たれた窓から、そのバス自身のエンジン音が、乗客の私に届く。建物の前を通過する時はその壁に音が跳ね返ってオンに、空き地の前では音が向こうにに抜けてオフに、その入れ替りが面白かった。
スチール本棚の上辺に張られた、カーテンを吊るすためのスプリングの音に、すっかり引き込まれた。
張られた方向に爪で「ひっかく」、指の腹で「こする」、直角に「はじく」などの「奏法」によって色んな音色が得られること。
はじいたスプリングが本棚本体に触れて「ジワーーン」と大きな音を立てること。
これらの音が本棚本体に共鳴して、リヴァーブがゆっくり減衰してゆくさま。
いまエフェクト名を援用して描写してるけど、当時は原理は解らなかった。ただ面白かった。
これらが、CD 鑑賞よりももっと、『狂気』以降の私の音楽の聴き方に直結してる。
長岡京市は竹林が多い。竹林があればそこに石を投げ込むのが子供である。石が竹に当たり、跳ね返ってもう1本に当たり、場に反響する、音。
ピンク・フロイド「エコーズ」の、ヴォーカルが出て来るまでの3分間に、ちょっとだけ「日本」を聴き取ってたのは、モードと、ボトルネックのポルタメントによると思われる音響が「篳篥」に通じること、のせいだと思ってたけど、レスリースピーカを通したピアノの音色によるメロが、あの石が竹を打つ音に通じ、バックの音響が、麓から見る雨上がりの西山の、靄とも光明寺の屋根瓦ともつかない水墨画的トーンと呼応する、当時そう感じてたことを、ふと思い出した。