【今回のあらすじ】「サビに入るとヴォーカルの音域が上がる」というとほとんど「あたりまえ体操」だが、逆な例もある。
まず、原曲。
ヴァースを [A]、サビ前半を [B]、サビ後半を [C] として、コード進行。
幅広く、自由な転調を含む。
支離滅裂ではないけど、カデンツで考えるというよりも瞬間瞬間に対して敏感で、各セクションのキーがどこなのか、例えば [B] のキーが C なのか A なのか、特定しづらい。
サビに入るとヴォーカルの音域が上がる。最高音は [B] の「feel」と、[C] の「way」の a。
[B] での a に向かう登攀。
[C] 冒頭での頂点の明示に至るのに、直前の「And the」でいったん下ってタメを作るとか、心憎い。
This Mortal Coil によるカヴァー。
[A] はキーも歌メロも原曲どおり。
[B] に入ると、歌メロが、原曲の「ドレミソラ」に対し、低い「ミソラドミ」とやってて、[A] で f♯ まで上がってた音程が、ここに来て、最高でも e、と逆に下がってる。
[C] ではさらに下がって、ついに原曲に対して完全5度下まで平行移動してる。ここの最高音は d。
曲が進むにつれて音が下がってゆく、という斬新。沈潜する曲調に相応しい。
この曲、低音が、曲始まりのキーである b を、フルコーラスずっと引っ張ってる。
[C] では、ヴォーカルラインだけ取り出すと、原曲の D に対して、それをそのまま G に移してる。つまり G/B なわけだが、というよりむしろ「b のフリギア旋法」に聴こえる。
サビの歌メロの終わりは G の第3音 b で、曲開始のキーと一致し、スムーズにヴァースに戻る。
ところが。
このあとさらなる斬新が待っている。
「ベースの持続音+ヴォーカルラインのみ」を貫いてきたこの曲、2分24秒目に三和音の白玉が登場する。
2分35秒目には「ベースの b 音持続」が途絶え、サビが再登場。
そのコード進行は、
C A C Am7 D G D
原曲と同じ!少なくともキーは!
つまり [C] では、原曲どおりのコード進行の上に、ヴォーカルラインが原曲の完全5度下に移されて、乗ってる、という。
自由だ。