『リノスの歌』について書いた時に触れたけど、私が最初に聴いたジョリヴェは、無伴奏フルートの『5つの呪文』(1936年作曲)だった。最初期の、異教性・呪術性まっしぐらの。
イシュトヴァン・マトゥズ István Matuz の演奏だった。発声奏法というか、差音が激しいのが中坊の耳には斬新で、私が最初に出会った「現代音楽」の響きのひとつだった。
ところが、これはマトゥズが演奏上の積極的なアプローチとしてやってたことで、曲自体はことさら特殊奏法を含まないふつうに単旋律の曲だ、ということがのちのち判った*1。
あった:
ただし、私が聴いたのと同一音源ではないっぽい。記憶にある響き、中坊の私が衝撃を受けたそれに近いのは、第5曲。
あと、第4曲で循環呼吸やってるけど、譜面にそういう指示はないし、他の演奏者で聴くとふつうにブレス取ってる。
追記(2024年06月09日)始め
あと、第2曲の 2'51"~ 3'26" の長いポルタメント、いったい何やってるんだろう?と思ってたんだけど、譜面を見ると、
たしかに「port」の指示がある。他の演奏家は、私の聴いた範囲で全員、この指示を無視してる。作曲者の意図としては、ここをどう奏するのが正解なのか、知らない。少なくとも、いくらなんでも、マトゥズがここでやってるのがそれではないのではないか。
追記終わり
このマトゥズのアルバム "The New Flute" は無伴奏フルートの現代曲を集めてる*2。1978年に LP、1992年に CD が出てて、収録曲と曲順が少し違う。
ヴァレーズ『密度21.5』、ジョリヴェ『5つの呪文』という、無伴奏フルートのレパートリーとして不可欠の2曲のほか、わたし的には初耳の作曲家たち、Barnabás Dukay、László Dubrovay、László Sáry(LP のみ)、István Szigeti(CD のみ)による曲を収録。
CD の方にはマトゥズ自作曲が2曲入ってて、面白いので、機会を改めて取り上げるかも*3。
関連記事:
*2:LP 所収の Dukay と Sáry の共作 'Two Players' はチェロとのデュオ。CD 所収の István Szigeti 'Tempophony' は弦楽オーケストラを伴う。
*3:追記
LP と CD の収録曲と曲順の違いをいうのには、具体的に書き出すのが早いし判りやすいですね。
LP:
A1 László Dubrovay: Matuziada No. 2 (Steams)
A2 Barnabás Dukay: +α
A3 Barnabás Dukay, László Sáry: Two Players
B1 Edgar Varèse: Density 21.5
B2~6 André Jolivet: Cinq Incantations
CD:
1 Edgar Varèse: Density 21.5
2~6 André Jolivet: Cinq Incantations
7 Barnabás Dukay: +α No.1
8 László Dubrovay: Matuziada No.2:Steams
9 István Matuz: Stadium 3 "Sakura Sakura"
10 István Matuz: Stadium 1/974 "...L(élek)zem..."
11 István Szigeti: Tempophonie
以上 Discogs に拠りますが、明らかな表記ミスは修正してます。
LP の A3 が CD の 11 に差し替え、Matuz 自作の2曲が加えられた形です。