さっき友人との会話の中で、cucumber という単語は「不思議の国のアリス」で憶えた、という話をさせてもらった。
それで、そのくだりのあらすじを、原文を見ずにどこまで思い出せるか、やってみたくなった。
「ビル、送り込まれる」の章。白ウサギが、アリスを女中のメアリ・アンと取り違えて、家に戻って扇子と手袋を取ってくるように言いつける……
白ウサギの家の中で身体が部屋みっちりに巨大化して、入りきらない片腕を窓から外に突き出した状態のところへ、焦れた白ウサギが帰ってくる。
「メアリ・アン!何してる?!」
アリスは突き出した手で(不自由な体勢のため外の様子が見えないので、あてずっぽうに)白ウサギのいそうなあたりの空を摑むと、キャッ!という叫び声がひとつして、ガラスの割れる音。
「キュウリ栽培のフレームの中に何かが落ちる音」みたいな。
白ウサギの声で「パット!パット!何してる!」
「リンゴを掘ってるんでさあ、旦那」
「リンゴを掘ってる!このマヌケ!早く来い!私をここから助け出せ!」(ガラスの割れる音)
「パット、窓のアレは何だ?」
「腕でさあ、旦那」(arm を arrum と発音)
「あんなサイズの腕があるものか!」
「おっしゃる通りでさあ。でも結論としてアレは腕でさあ」
「とにかくアレがあそこにあっていいわけがない。取り除けろ!」
アリスがもう一度空を摑むと、キャッ!という叫び声が今度はふたつして、さらにガラスの割れる音。
「まあ、ずいぶんたくさんキュウリを育ててるのね」
……このあと近隣住民総出のアリス排除作戦が試みられ、最終的にビルが家の中に送り込まれる。
本文の描写では、小さくなったアリスが家から脱出する際、人だかりの中に、介抱される1匹のトカゲの姿を認め、「(それがビルでした)」と説明される。これがアリスがビルの姿を見た最初、つまり読者にとってもこの時点までビルが何者なのか判らない。
本文ではそうであるのに、それに先立つページにビルの挿絵があり、正体がトカゲであることがバレている(マクミランのペイパーバック、ペンギンブックス "The Annotated Alice" の場合。挿絵はもちろんサー・ジョン・テニエル)。