David Sylvian "Secrets of the Beehive"

'September'

David Sylvian "Secrets of the Beehive"(1987年)所収。

アルバム冒頭にこの沈潜を置くというのが既に美意識の表明だ。

"Brilliant Trees"(1984年)の冒頭が 'Pulling Punches' だったのとの対比でなおさらそういう印象になるわけだけど。

 

じつは、このアルバム、むかし聴き込んだ筈なのに、いったん内容をすっかり忘れてた。1か所を除いて。

'Orpheus'

これの 2'13" ~ 2'31" の着想が鮮烈で強く印象に刻まれたために、他の全てを忘れてしまった。

弦の和音が、常軌を逸したちょっと気が遠くなる長さ、引き伸ばされて、ディミヌエンドしてゆく。

 

聴き直すとおおよそ記憶が蘇った。アルバム通して、「静か」であるということより、「パーソナル」であること、パーソナルに徹して雑念を排除した結果がこの静かさだ、ということがキモなんだろう。"Brilliant Trees" にも("Gone to Earth" にも)静かな曲はあるけど、ポップ作品として整える指向強めとか、作曲「方法」試行の齎す静かさとか、の印象で、「人」と「作品」とのあいだに距離がある。

 

'The Devil's Own'

'Maria'

 

アルバムの意識的な始め方の例は、King Crimson "Starless and Bible Black" と、この "Secrets of the Beehive"。2つは動と静で対極とも見えるけど、勿体付けず出合頭に世界を示す点と、意識的である点とで、共通してる。

 

頭の中にいつの間にか場を占めて、折に触れ再生され、でも出典が判らない楽想、というのがいくつかある。

今回このアルバムを聴き直して、そのうちのひとつが 'Waterfront' の pouring in my heart のラインなのが判明した。