馬鹿

人を本当に傷付けるのは悪ではなく馬鹿、といったんは思う。

こちらの話が通じず疲れさせられる。言えば言うほど話が縺れる。でも同時に、あちらの話をこちらが理解不能ということでもあって、あちらからはこちらが馬鹿と見えるのかも知れない。

 

彼女が、音楽作品なり音楽観なりについて、説明をする。

言葉を並べるのだけど、「空回り」してる。「浮遊」してる。

的確に言い表す言葉を探すことを怠ってるように、こちらからは見える。なぜその曲についてその語が使われるのか? 取り敢えず見繕って来て間に合わせてるだけなんじゃないか?

音楽を論ずるための語を持ち合わせないのか? 一般的で意味の広い語を使って、ここでは何を指し示そうとしてるのか?

 

対象を捉えきれてないのか、それとも捉えたことを言語化出来ないのか。でもこの同じことを、彼女には彼女なりの理路があって、これを私が理解出来ないのだ、とも言える。しゅゔぁんくま言える。

 

翻って私自身、ただ繰り返し対象に並べて特定の語を持ち出すうち、的確に言い当ててる気がし出しただけなのかも知れない。

私には明確に了解されてることが、彼女からはイミフに、つまり馬鹿に見えるかも知れない。

 

彼女が私の理路を共有してくれないことを理由に、彼女を馬鹿と呼んでいいのか?

 

棲み分ければ済む話だ。でも彼女が私の大切な人を傷つけたので、我が事なんだ。

 

 

人を本当に傷付けるのは悪ではなく馬鹿、といったんは思う。

でも、悪とは相手の苦しみを自分の苦しみとして理解する頭の働きを具えないこと、とすれば悪もけっきょく馬鹿ということだ。