昔、ある方から伺った話(不正確な引用)。
TV で、自閉症の少年がピアノでバッハのメヌエットを弾くのを見た。2つのメヌエットが対になった、短調のほう。
メヌエットには絶対あり得ない極端に遅いテンポで、2声の重なりが4分音符または8分音符の長さ毎に交替してゆく、そのひとつひとつの響きに耳を澄まし、そのいちいちを愛しむように。
僕は、負けた、と思った。僕はここまで深く音楽を愛してない。
だって、僕だって演奏後にピアノの鍵盤くらいは拭くけど、ふつうピアノの脚までは拭かないでしょ。
私は、この愛が、「正しいバッハ演奏」から外れたりこれと対立したりこれを妨げたりしないばかりか、これを深いところで基礎づけるものだ、と思う。