Rock Magazine と『炎』

ピンク・フロイドの日本盤は、『狂気』まで東芝EMI、『炎』からCBSソニー

 

阿木譲 Rock Magazine の功罪。

ロック雑誌といいつつ、ロックを核に、他の音楽ジャンル、文学や美術、思想まで、多分野をカヴァーしてた。ここでしか読めない=初邦訳の記事もあった。ただ、誤読、誤訳、誤字の多い「素人仕事」でもあったようだ。

阿木の関心事、例えば「神秘主義」「呪術」などのタームのもと、本来別文脈のトピックを牽強附会して特集記事を組むなど。ものものしい虚仮威しの先走り、思い込みの空回りは、端的に「文化人コンプレックス」「松岡正剛ワナビー」の為せる所だったかも知れない。

よくある「嗅覚先行」と「自己顕示」の結び付き。

 

でも、"Wish You Were Here" に『炎』という邦題を付けたCBSソニーの担当者に阿木譲自ら詰め寄ったインタヴュー記事ひとつを以て Rock Magazine は不滅だ。

以下、例によって、手許にその号の現物も、関連資料も無く、記憶だけが頼りで、その記憶が覚束ない。引用は全て不正確です。

CBSソニーの担当者曰く、

「だってこれまでも『狂気』とか、原題とは違う邦題だった、それを踏襲しただけ」

驚愕すべきことに、"The Dark Side Of The Moon" が何故『狂気』と訳されるのか、理解していなかった!

東芝EMI石坂敬一氏は、アルバムをきちんと聴き、きちんと理解し、作品への敬意とアーティストの意図の尊重を最優先に、邦題を決めた筈である。the moon はそのまま lunatic に繋がる。じっさい 'Brain Damage' の歌詞にこの lunatic という語がストレートに出てくる。アルバム世界を正確に理解すれば、むしろ『狂気』はこれ以上有り得ない的確な邦題である。

CBSソニーの担当者が「踏襲」したのは、「字数の少ない漢字のタイトル」という、最も瑣末な点だけ。そもそもピンク・フロイド自身が「邦題は『あなたがここにいてほしい』で」と指示して来てるのにかかわらず、これは副題にされてしまう。

インタヴューでは、挙句、

「タイトルが違うせいで内容が違って聴こえるようなら、作品の側の不備」

とまで言ってのける。

そしてどうやら「ロック」と「ロックンロール」の区別すらついていない。「ロックすなわち生(せい)」である阿木にとって、決定的に許せなかったにちがいない。

 

1970年代、80年代の評論家には、個性の強い方が多い印象。

ロック愛が強烈なぶん、アーティスト本人の意図を正確に紹介するのよりも先走って、自らの思い入れをゴリ押しし、空回りする、阿木譲とか、岩谷宏とか。

CBSソニーの担当者が「アーティストへの愛が無いが故にアーティストの意図を蔑ろにする」のと真逆に。

 

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