Yes "Tales From Topographic Oceans"

80分の大作がいきなりヴォーカルで始まるのが最高にかっこいいと思った。

私はプログレの CD をあまり買わない人だった。叔母の書斎でアナログ盤を聴いて過ごして判った気になってたし、メジャーどころについては、熱意のピークが、自分で CD を買い始めるタイミングとずれていた。Yes の Rhino からの2003年リマスター再発も "Relayer" しか買ってない。

なので、2分間のイントロが付いたヴァージョンの "Topographic Oceans" を知ったのは、実はごく最近だった。Wiki によると、その、2003年リマスター時に付いたもの。

いきなり歌い出すヴァージョンもかっこいいし、イントロ自体も深く沈潜するアトモスフィアづくりに有効な導入だし、どっちもアリ。

 

とにかく重要なのは、このイントロを聴くことで、Yes の音楽の構築性を再認識できた、ということ。

すなわち、

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ギターパートに現れる e - dis - h - d - cis - a の音形は、3分33秒目に華々しく提示される主要モティーフを先取りしてる。

もちろんこれは2分目以降にもう一度同じ形で出て来るものだ。なのだが、旧ヴァージョンで、ヴォーカルのバックで奏されるのを聴いてるあいだは、アドリブで適当にやってるものと思い込んでた。最も重要なモティーフを厳格に提示してる箇所なのに*1

 

私は第1曲 'The Revealing Science Of God (Dance Of The Dawn)' と、第3曲 'The Ancient (Giants Under The Sun)' がとくに好き。つまり 'Ritual (Nous Sommes Du Soleil)' の、ノリ重視の、勢いでやっつけた感を好まない。4曲中、ライヴで最もやられる曲だし、人気曲なんだろうけど。

いつの話題だったか、このアルバム再現ライヴで、'Ritual' だけ縮小版でやるという話に、さもありなんと思った。スクワイア無しでこの曲をやってもなあ、と。

 

このアルバムは、アイデアの異常な豊富の反面、茫洋というか冗長というか、例えば(イントロ込みのデュレイションで)4分43秒目からの4分間の停滞*2が、謎。

ウェイクマンのこのアルバムへの不満理由のひとつ「長すぎる」というのも、4曲で80分 LP 2枚組という絶対時間での長さであるより、「冗長」への不満だったのでは(勝手な想像)?

彫琢、密度上げの余地はあったと思う。

 

ちなみに前述2003年 "Relayer" の 'The Gates Of Delirium' のリマスター処理には不満がある。

この曲、最後、ディミヌエンドで終わると、バックでかすかに鳴ってるブームノイズが現れるんだけど、リマスターではこれを除こうとする行き過ぎたノイズリダクション意識のせいで、曲自体がフェイドアウトで終わってる。曲自体を損ねる処理を私は受け入れられない。

 

以下、本当に他愛ない喩え話なんだけど。

プログレに「ベト7的位置」のナンバーというのがある。命名は私。

「単純」と「勢い」で、一面性を敢えて辞さずやっつけた「潔さ」の曲。

Genesis の ’Watcher Of The Skies'、Yes でいうと 'Roundabout'、そして 'Ritual'。

ベト6「田園」だけ取り出して論じる価値はない。第5番 Op.67 の次の第6番 Op.68 だから面白い、というだけで。

Yes でいうと 'And You And I' は「田園」的だ。これだけ論じてもしょうがない。Yes の音楽の「中核」で、その意味で「ベト5」的な 'Siberian Khatru' と並んでるから面白いのであって。

"Topographic Oceans" の第2曲 'The Remembering (High The Memory)' はまさに「田園」だ。愛して已まないし、浸りきって豊かに時間を過ごすけど。「音楽的内実」と「好き嫌い」とは別な場合もある、という話。

*1:もとより、「モティーフ音形がいくつか設定されて、それぞれ4曲をまたいで繰返し登場する」ことは、このアルバムの大事な特徴のひとつだ。

第1曲 5'02" 目~の歌メロが、第2曲 2'00" 目~のキーボードと 6'08" 目~のヴォーカル、第3曲 8'39" 目~のスティールギターに再現するし、第3曲 4'39" 目~、第4曲 5'24" 目~=この曲の核心 'Nous somme du soleil.' もこれに基づくと見做せること、とか(第2曲 6'08" 目~ではヴォーカルにシンクロしてギターが「ドシドラ、ソ、」とハモるが、第4曲 5'24" 目~ではこのギターの音形が先行し、ヴォーカルと交互の掛け合いになる)。

第3曲 0'45" 目~のスティールギターのメロが、第4曲 13'11" 目~のブリッジ的音形と 16'09" 目~のドラム(タム)に再現すること、ことによると第2曲 0'37" 目~の歌メロも関係があること、とか。

第2曲 1'33" 目~の歌メロ冒頭3音の下行音形が器楽的に畳み掛けられて 4'21" 目~のブリッジ的箇所が作られ、第4曲 0'18" 目~のギターに華々しく再現すること、とか。第3曲 6'13" 目~のギターとメロトロン(ソロ弦の音色)の6度ハモりの冒頭3音の上行は、この第2曲 1'33" 目~を反行させたものだろうか?

ついでに、各所で 'Close To The Edge'、'Siberian Khatru'、'Heart Of The Sunrise' の断片がよぎったりもする。

「『海洋地形学』モティーフ一覧」を作ってる人、いるんだろうな。

なお、yesofficial がつべにあげてる4曲はそれぞれ2種類ずつあって、第1曲の2種類のうち、こっち

は、イントロが、もう1種類の (2003 Remaster) としてあがってるやつよりも20秒ほど短い。上記のデュレイションは (2003 Remaster) による。 

追記 以上に大幅加筆して別記事にしました:

*2:というのは聴感上の退屈のことで、脚注1にいった 5'02" 目~は「モティーフ提示」の意味で重要ではある。