参照と連想

この2曲は、メドレーでもあるし、モティーフ的にも繋がりがある。

すなわち、'The Light Dies Down On Broadway' のイントロの gis - fis - cis - fis

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が、'Riding The Scree' のコーダ(3'35"~)で、音価を変えて、

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と変奏される。

 

「Woman "Wの悲劇"より」

作詞:松本隆、作曲:呉田軽穂松任谷由実)、編曲:松任谷正隆、歌:薬師丸ひろ子

1984*1

この曲、前掲のジェネシスの2曲を参照してるのではないか?

以下の2つの点がそう思わせる。

① イントロの、コード進行と、分散和音的反復で刻むアレンジと、雰囲気が、'The Light Dies Down On Broadway' のイントロに似てる。

'The Light Dies Down On Broadway' では、パッドのコード1つの長さが4拍、それを8分音符で刻む。「Woman」では、パッドのコード1つの長さが2拍、それを16分音符で刻む。つまりどちらも8等分に刻んでて、前者を倍速にすると後者になる、という感じ。

コード進行は、どちらの曲も、

[ⅰ → Ⅶ → Ⅵ → Ⅶ] ×2

で、パッドのコードが移り変わっても、刻みのパートが、変わらず持続する音高を含むことも共通点*2

② サビ(1'09"~)の歌メロの音形が、'Riding The Scree' のコーダに似てる。

この Genesis の2か所ははまさに上掲の2か所で、ということは、もしかしたら、作曲者呉田軽穂(か、編曲者松任谷正隆か、どちらかあるいは両方)が、Genesis 曲の2つの箇所の関連を分析済みだったのでは?というところまで憶測してしまう。

 

プログレ用語としての「シンフォ」の意味は私にはちんぷんかんぷんだが、ジェネシスは、語本来の意味で「シンフォニック」だ。

部分と部分、部分と全体が、有機的に結びついて、響きあうさま。

ひらたく言って「モティーフの処理が巧みであること」。

'The Fountain Of Salmacis' や、殊にアルバム "The Lamb Lies Down On Broadway" がそうで、いくつかのモティーフが、何度も再現し、その度にアレンジや和声的意味付けが変わってる*3

前掲2曲の例示した箇所も。私はこの例から、ドビュッシーのヴァイオリンソナタを連想する。

第1楽章冒頭、ヴァイオリンの弾き始め、テーマが、緩やかに、密やかに、提示される(ここの強弱の指示は「p」です):

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これが、第3楽章(フィナーレ)の最後の最後、ピアノの右手に、

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「レシソシソミレシソシソミレシソシソミレシソシソミ!」と「f」の16分音符で、けたたましく再現する。

 

補足の関連記事:

*1:"The Lamb Lies Down On Broadway" のちょうど10年後。

*2:「Woman」のほうでいうと、パッドのコードは

Cm → Gm 第1転回(つまりいちばん下の音がB♭)→ A♭maj7 → Gm 第1転回

で、そこに乗っかる刻みのパートはずっと変わらず

c、低い c、f、g

で、Cm に対しては f が、Gm に対しては c、f が、A♭maj7 に対しては f が、それぞれ付加音になる。Gm 第1転回に f が付加されるとすなわち B♭6 である。

*3:そもそも 'The Light Dies Down On Broadway' という曲は、タイトルからしてアルバムオープニング曲 The Lamb Lies Down On Broadway' のリプライズという性格が強いのだが、同時に 'The Lamia' のリプライズでもある。'The Light Dies Down On Broadway' のAメロは、'The Lamia' のBメロの使い回しである。