「ザ・シネマ・ショウ」NG判定

(2015年12月24日、記)

 

Genesis 'The Cinema Show'、"Selling England By The Pound" 所収。

 

かつてわれ、男なりき、海の如猛りぬ。

かつてわれ、女なりき、地の如育みぬ。

地の至福は、まこと、海の快楽に十倍するところなり。

 

この曲、初めて聴いた時から感想は一貫してて、アルバムの特色の一面を代表するに足る、造形・アレンジの繊細と、展開の柔軟、下世話とギリシャ神話を往還するシニカルで謎めいた歌詞に、満たされつつ聴き進み、後半インスト部に差し掛かって、がっかりする。

 

ワンパターンのリズム形に乗って、惰性に任せて反復や模続進行が延々続く退屈。

なまじ7拍子。

瞬間瞬間に必要な拍子をその都度選択しつつ進行するのではない、大枠として終始一貫、7拍子。

7拍子なんて1973年当時としても珍しくないし、7拍子採用してる=ポイント稼いでるという発想が、もしあるのなら、創造の放棄だ。

 

こういう曲があるから、もの考えない者が変拍子を勘違いするんじゃないか?

ジェネシスフォロワー達って、こういうところ必ず真似するのね。何故だろう?

真似しやすい、ジェネシスっぽさを安易に出せる、のかな?

 

ジェネシスフォロワー聴いて何かを得ることって凡そ無いけど、ケベックの Ère G というバンドには、本当の創意を感じた。

多くのフォロワーと違って、'The Cinema Show' の「前半」を受け継ぐ。

「前半」は、真似すれば済む世界じゃない。

受け継ぐことがすなわち創意であるバンドって、滅多に無い。

ここにリンクする曲はとくに内発的で独自で、ジェネシスフォロワーの括りは、無礼です、済みません。

 

追記 2016年01月02日

以前私、カケハシ・レコードさんのサイト

に、レヴューを投稿したんだった:

 

「楽想てんこ盛り」

 

ジェネシスフォロワーを聴いて納得することは滅多にありませんが、このCDの、声部や音色を丹念に重ねる手際の繊細さと、楽想の豊富さを、最大級に評価します。

 

「シネマ・ショウ」前半の間奏を継承するような、12弦の静謐なアルペジオのリフの上を、管や弦が、時にソロで、時にハモって、時に対位法的に絡み合って、フレーズを惜し気もなく次々に繰り出すパートにうっとりします。

 

演奏も歌心がありクォリティ高いですが、特筆すべきは作曲態度です。

惰性を拒絶する、全瞬間を真に有意の楽想で埋めんとする、よほど自己批評の鋭い作曲です。

メロディの一々が本当にキレイですが、感情をこめて歌い上げるメロ美ではなく、造形として本当に練れた美です。

 

如何にフレーズや音色の重ね方が繊細か、如何にアレンジ上の必然に基づいて各パーツが配されているかは、6曲目イントロのフルートのフィルインのひとふしを聴くだけで判ります。

ニュアンスのたゆたいの音楽にあって、唯一不釣り合いなのがドラムで、やけに単純で凡そ「フレーズ」というものが無い、と思っていると、ラスト曲の2:21からの1分間、フィル・コリンズばりの怒涛のフレーズで「やればできる」ところを見せつけます。

 

ヴォーカルはミックスバランス的に小さめで、力まない発声と正確な音程で純正にハモって魅力的です。

 

以上。文中「6曲目」とあるのは、上にリンクした表題曲のこと。

「2014年4月8日に購入済みです。」と出るのでそれ以降に書いたらしい。

この表示のおかげで、何度、同じCDをダブって買わずに済んだか。

 

補足: