Yesterdays

ふと思い出した。「ジェネシス」という語の、音(おん)だけ、語感だけから既に夢想を限りなく広げてたこと。小6の私はこれが「創世記」の意味なのを知らない。

「クリムゾン」が「深紅」なのを知らない。「ユーライア・ヒープ」って何だ?でもその音(おん)は、アーティストへの期待を弥が上にも高めた。

多分に筋違いで、アーティスト的には迷惑な、期待。でも名乗る側にも、そういう思わせぶり効果を狙う意図は、多かれ少なかれある筈だし。

 

知恵が付いて、知恵に沿ったものの見方しか出来なくて、ロマンティシズムを根拠が無いものとして排斥する大人の私がバンド名を面白がる時、その理由は、もっと皮肉で厭味だ。

Yesterdays。このバンド名に膝を打った。

ハンガリー(とルーマニアの混成)*1プログレバンド。

Relayer でも Fragile でもなく、Yesterdays。

 

"Yesterdays" はイエスの 1st. と 2nd. からのセレクトを中心とするベストアルバム。

リリースは1975年、つまり "Relayer" の後。初期も良いので聴いてね、的な。 

この、影の薄い、存在意義の明確でない*2ベストアルバムのタイトルを、バンド名に使う。最高のシャレだと思った。

 

前身は You And I というバンドで、やはりイエスがらみのネーミング。こちらは出音がロックで、イエスからの影響がより直接的かも知れない。

Yesterdays はアクースティック要素が強い。でも、例えばこれ

の4分12秒目には、イエスの聴き手なら、微笑んでしまう。

No one I think is in my tree.

 

作曲も演奏も、丁寧に作り込まれてて、質の高いバンド。

 

関連記事:

*1:追記 2020年11月24日

ハンガリー出身でルーマニアを拠点とする」というのが正しいようです。

*2:シングル曲「アメリカ」(サイモン&ガーファンクル曲のカヴァー)の、未発表10分半ヴァージョン=シングル用に4分に編集される前のフル・レングス、という目玉を含みますが。

追記 2022年04月25日

訂正。この10分半ヴァージョンは、サンプラー・アルバム "The New Age Of Atlantic"(1972年)に収録されたのが最初だそうです。

センテンスの長さ

「センテンスを短く」は基本だけど、場合による。

 

当ブログでいちばん長いセンテンスは、たぶん、この記事の第3連だ。

shinkai6501.hatenablog.com

 《私がそれなりに熱心にプログレの情報を追っていた(≒ユーロ・ロック・プレスを読んでた)のは数年前までなので、最近は違うのかも知れませんが、日々飽きもせず量産される新バンドを評価するのに、まずクリムゾン的とかフロイド的とかGG的とかのパラメータがあって、それらを各何割ずつ含むかが即ちそのバンドの個性、みたいな風潮が強くあって、評論家が、言葉で音を紹介する便宜上そうなるのはまだしも、アーティストの側までそれに沿って発想するケースが多い印象でした。》

222文字。

 

長さ故意味を取りづらいとは思わないし、長さには何らか必然があった筈。

この連はメインの論旨じゃない。論旨は第2連で尽くしてて、第3連はエピソードだ。

論旨は端的に尽くす。取りこぼした「思い」はエピソードにこそ籠める。

強い思いを、しかし一気に、片す。この場合センテンスの「数」を多くする方が却ってまだるっこくなる。

 

要は、句点を入れようが入れまいが、「構文を見えやすく、追いやすくする」こと、読み手が頭の中で内容を整頓しつつ読み進められる構文になってるかどうかのチェックを怠らないこと、そのためにつねにセンスをフレキシブルに保つこと、なので、「センテンスの長さ」というこだわり方に心がけを固定してしまってチェックが機能不全に陥っては本末転倒だ、ということ。

170文字。やはり殊更に長くしようとして長くなるものじゃない。

 

次に長いのはこれの11段落目かな。

shinkai6501.hatenablog.com

《「ちがう」を wrong の意味で使い得ても、「ちがわない」は、焦点鋭く not wrong と訴えるよりは、これと not different の両方を含む語であり続けて、否定のベクトルが食い違ってるし、強さとしても、ストレートな「私は正しい」のほうが、彼らの気持ちに適ってるのだが、「ちがう」の語を示されればこの「ちがう」自体を否定形にして返すのが、自然な感情でもあり、反論の正道でもあって、つまり適当な語が存在しない。》

スペース含め211文字。

 

この場合も動機は「一気に片したいから」。

Genesis 'The Lamia'

Genesis "The Lamb Lies Down On Broadway" に私は最初アナログ盤で馴染みました。

この動画がそのミックスに聴こえます。6分45秒目~のフルート・ソロは、私がジェネシスを忘れがたく親密に思うようになった要因のひとつです。

ごく短いけど、楽想そのものと、曲がフェイド・アウトしてフルートが取り残される感じのミックスが、強い印象を残しました。

今たぶんいちばんふつうに聴かれてるのはこのリマスターです。

件のフルートのパートが埋もれてしまってます。

(あと、フェイド・アウトのタイミングが若干違って、こっちのが2秒ほど長く聴けます。)

 

歌詞

we are the Lamia of the pool

について。

疑問が3つあります。

①Lamia は単数形、複数形は Laimas または Lamiae です。この箇所では何故単数形なのか。

②私の辞書には [léimiə] の発音しかありませんが、ゲイブリエルは [lǽmiə] と発音しています。

③ゲイブリエルの歌唱では、まるで [lǽmiə(r]  であるかのように [r] が補われてる、つまり単独で読まれる場合または次に来るのが子音である場合は発音されず、次に来るのが母音の場合だけリエゾンが起こって発音される [r] が存在するかのようです。この箇所の場合次に来るのが母音の o なので発音された、という体です*1

まず①については理由は明白と思われます。

この曲は曲調も歌詞もエロティックです。そもそも Lamia はどうしたって labia を連想させるし、作者がダブルミーニングを意図してるのは間違いないと思います。labia は複数形です(単数形は labium です)。

②③については、①のあからさま過ぎる意図を、逆にぼかすベクトルを感じます。

③はたんに語調を整えるためかもですが。

 

ひとつ目の動画は、曲に由来しない絵を当てていてるのが気に入りません。

ウォーターハウスとラッカムを含みますが、ウォーターハウスのはマーメイド、ラッカムのはラインの乙女たち(ヴァーグナー『ニーベルンクの指輪』の挿絵)です。ラミアではありません。

歌詞には the Lamia は three vermilion snakes of female face と描写されています。

 

 

追記 2018年2月25日

疑問②については lamb [lǽm] との関係を考えるべきでしょう。

ですが、そもそも、アルバムタイトルになってるにもかかわらず、the lamb について歌詞は殆ど全く言及しません。

第1曲=タイトル曲の中で、リフレインで5回、それ以外に1回、the lamb の語が出るだけで、短い描写のみ。

それ以外、アルバム通して、この語が出すらしないんじゃなかったっけ?

ストーリーの中での位置付けも、主人公レイルとの関係も、表立っては語られません。

the lamb と the lamia との関係を考えようにも、そういうわけで手掛かりがありません。

'The Lamia' では、ラミアはレイルの血を求め吸うけど、その途端死ぬ。レイルはその死骸を食べ物として受け取る。

このアルバムは、全体のストーリーも、個々のエピソードも、解釈の取り付く島がありませんが、仮に the lamb とレイルとを同一視して、the lamb と the lamia の交合とその犠牲から、私などはインセスト・タブーを思ってしまいます。

(「全ての愛は畢竟自己愛」みたいな線は無さそう)

そういう解釈は既にありそうだし、このアルバムの詞世界の研究は尽くされてるのでしょうが、私は不勉強です。

*1:追記 2020年02月18日

この [r] は intrusive r と呼ばれ、英語の話し言葉において非常に頻繁に現れるものであることを、今日知りました。これが起きるための条件がいくつかありますが、この Lamia(r) of のケースは条件を満たしています。